第六章 <定番は時を超えられず賞味期限アリアリ>
  2001/9/15 update


 みなさぁ〜あん、クロゼットの中には〜、自分なりの“定番”と言えるものが必ずあるでしょ〜う? それってどんなモノかなぁ〜? “定番”と言えるからにはまだちゃんと着られるんでしょうねぇ〜? ええ〜っ? 人前では着られないのぉお〜? じゃあぁそれってもう“定番”じゃあないじゃあありませんかぁ・・・。んん〜? 出てくる出てくるゾロゾロと代々の“定番”がぁ〜〜?(ヒュードロドロドロ・・・)ギャーッ! それぢゃ“定番の墓場”だぁああ・・・。

おおコワ!! でも不要なのにストックされている服はマンションの家賃も喰っているので現実的にもコワ〜ぁあい、のです。
 ところで、このあいだの拙著「おしゃれな女性になる63のヒント」の28・定番やベーシックウエアはいつまで着られる?(p90)の中では“黒のタートル”を例に出しましたけど、ま、あれは私のことだな。
 前章で書いたように私は高校の頃から“黒のタートル”っつーのに執着しているからってわけじゃあないのだけれど、いつもクロゼットにこれの“決定版”が無いと何だか落ち着かないということに長年なっていますのです。

 でも今は、たぶんその手は2〜3枚、というくらいスッキリしたものですが、2〜3年前までがヒドかった。要するに“シルエットの変わり目”の時期ってこと。やはり文中でも書いてますが「流行は、デザイン、ディテールよりもシルエットにいちばんあらわれる」なのですから、その入れ替え時がいちばん混雑するし本人も混乱します。シルエットが変わることって、それまで慣れ親しんでいた自分の全体のバランスが変わってしまうので、最初はどのくらいが自分にとってのベスト・フィットなのか微妙にわからなかったり。次に買ったものがベター・フィットと思えると前のが急にダサく思えたり。また編地の厚さ薄さや素材感、フラットな編地かリブ編みか、とか、黒のタートル一枚といえど奥が深いのですよねえ。
 だからそういう時期には必ず“決定版”の他に“失敗版”もあって、でもまだキメが出せなくて「どうにか着られるんじゃないかなー?」なんて思ったり。そして、もう着ないとわかっている“ダルマ型”(袖口や裾リブが締まって、ふくらんだシルエットのものをニット業界ではこう言う)のも、「これは素材がイタリア製のウールでとても着心地がいいの・・・」「あらこれは厚手のカシミアもったいない・・・」、じゃ「風邪引いた時の“病院行き”着にしよっと」「うちで部屋着に」なんて、何となくキープしてたり。
また「寒い時には中肉タイプも要るのよね」なんて厚さのバリエーションもあったり、でも意外と着なかったり。そんなこんなで、段ボール一箱“黒のタートル”やハイネックなどのオトモダチもいて、黒のニットばかり何が何だかわからないくらいゾロゾロうじゃうじゃ、おおやだやだ〜!!

 と思ってバッサリ! 整理したけどちっとも困りませんでしたわ。時代は変わるし良いものもどんどん出てきます。うちで着るのも「流行遅れで今は何ともだらしないシルエットに見える元は高そうなセーター」よりも「スーパーなんかで買ってきたすっきり元気な¥2000のフリース」の方が、普段の生活でどんなにかかっこよく見え快適かってことです。
 困らなかった理由には去年からあまり“タートル”自体と“黒”を着なくなっていることもあるけど。厳しい検討の結果、残ったのはハイゲージのリブのものが2枚と、意外にしぶとかった(?)のが、6〜7年前に高かったのにたいして思い入れなく買った英国製ジョン・スメドレーの超薄手ウールのハイゲージのもの。これは身頃は薄いのにタートルだけしっかり厚くて着映えがするのと、シルエット自体はあまり細くないのに着た時スリムに見えるので、タイムレスとシーズンレスに着られる感じが当分キープしてもよいと。
 
でももし今シーズン、ベスト・フィットのものが見つかったら、今あるジョン・スメ意外はガレージセールかフリマ行きだな。そう「入れ替える」わけ。という風にと、ここいらへんまで読んでくれば、、わかるでしょ・・・? 今の服のサイクルというものが。
そう“定番の賞味期限”がメチャ短くなっている、それが今のファッションの流れってわけ。どんな服が、という現象面のことよりも『ベースのタームのサイクルがここ数年ですっかり変わってしまった』のです。それに気がつかないと、どうにも“時流”からハズれることになってしまいます。

そうです。「定番」という響きは、確固としたポジショニングに聞こえたり、また一時はそういうこととして「ベーシックに長く着られるもの」という感じがなきにしもあらずでした。しかし実は定番は「時流を敏感に反映するもの」なのです。同じ定番でも“白いシャツ”だとわかりやすいかも? 10年前のまだビッグなシルエットをまさか今着られるとは思わないでしょ? じゃ5年前のものは? まだ綿だけでストレッチ素材が入っていないから中途半端なシルエットに見えるわね。2年前でギリギリくらいかな、ストレッチ入りのコットンになりシャープでシャキッと見え、しわになりにくくメンテナンスも着心地も楽、身頃もよりスリムになり、7分袖が軽快だったり。
ひとことで“白いシャツ”と言っても、まったく別ものに変化、進化しているわけです。要するに、定番といわれるようなシンプルでベーシックな形にこそ、いつもビミョーに時流が反映しているので、その辺で気を抜くとすごい“落とし穴”になってしまうのです。

「そんなもったいない・・」「資源のムダ使い!」なんていう人もいるでしょうがそれは考え方次第。自分が着なくても欲しい人はいるかもだし(別にファッションに興味無い人も、体がビッグサイズの人も世の中にはいるわけだから)、その点今の時代はフリマでも友達と交換でもリメークでも、リサイクルする方法はかえって昔よりもいろいろありますし。
ファッショナブルにおしゃれに生きていきたいのだったら、まずは冷静にクロゼットを開け隅々からかき集めて、恐怖(いや未練と?)と戦いながら厳しく、いざ“自分の定番”の見直しをしてみましょうぞえええ〜〜〜。


次号へつづく